そぉいメモ@カクトラ

七つの海越えて 御霊求めて 今宵二つの星重なり ソラに煌めく

2017/05/30 卯月神楽 「カルティナ~月の魔女と太陽の姫」

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お題【ココだけの話】卯月神楽編

ああああっ!
大変な〆切破りのダメッコ入稿ぴょんこですっ。。
だって、唐突に「ココだけの話を考えろ」なんて言われても、そんなすぐには考えられないじゃないですか。でも、二晩かけて頑張って考えましたよ♪ というわけで、今宵お話ししますは、ぴょんこの夜語り。これを見ているのが昼でも、夜だと思って読んで下さいね。

    ◆ ◆ ◆

今宵は月が満ち、その光は闇を退けている。数多の蠢くものが静まるこの夜には、特別な力が降り注ぐことであろう。其は、満月によってもたらされる力。常夜の国クラルソにとっては、命の源泉たる力。今宵私が語るは、この地より遙か離れた彼の地に存在する常夜の国と常昼の国、その地に住まう、とある少女たちの物語。

クラルソは世界の裏側、日の光届かぬ地ゼムス丘陵の中央に位置する街。そこには数多の魔法使いが住み、彼女らは日々、魔法の力を源とした生業で暮らしていた。魔法の力は月の力によって蓄えられる。その為、満月の日は彼女たちにとって特別なもの。満月の日に雨が降れば、彼女らは力尽き、闇へと消えてしまうから。

ある日、満月近くにその光りを受けるため、魔法使いの少女ラヴィはゼムス丘陵にある石柱遺跡、クラバトロスへと向かっていた。そこは、この地で最も月に近いとされている場所。ラヴィはその場所がお気に入りで、何か辛いことがあったとき、ひとりでここへやってくる。
「今回は絶対に、負けられない」
月に向かって呟いたその鮮やかな紫色の唇、そして澄んだ青い瞳は、彼女の揺るがない決意を湛えている。ラヴィは決して才能がある子ではなかった。いや、むしろ落ちこぼれだった。彼女の仕事は、人々の悲しみを吸ってそれを「翡翠の涙」という結晶にして集めるというものだった。「翡翠の涙」は、それ自体がとてつもない力を持つ奇跡のエネルギー源。表向きは「悲しみを打ち明けてもらい、結晶にして忘れさせることで人々を幸せにする仕事」ということになっているが、実際は結晶欲しさにわざと酷いことをして悲しませて結晶を生ませる輩も多い。「どうせ結晶化したとき、その事は忘れちゃうんだから」というのが彼女らの持論だ。だがラヴィはそこまでして結晶を集めるのがいやだったので、決してそれはやらなかった。が、昨今他人に悲しみを打ち明ける人は少なく、そんな風潮も手伝って、今まで彼女が集めた涙はたった3個。他の同僚が30個、300個と集めている中、あまりに少なすぎる業績に、魔法使いの長は「次の満月までの期間に業績ビリだったら追放だ」と引導を渡したのだ。

いよいよ四の五の言ってられなくなってきたかも――ラヴィはクラバトロスの石柱を遠くに眺めながら、そう感じていた。追放されたら生きていけない。何としても「翡翠の涙」を大量に集めなければ。けど、酷いことをして悲しませ、結晶を集めるなんてしたくない。彼女の心は永久に抜け出せない螺旋階段の中を、只ひたすら回っていた。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか目的地のクラバトロスに辿り着いていた。月と石柱が織りなす神秘的な風景。見ているだけで魔力がみなぎってくるようだ。しかし今宵はそこに、小さな違和感を感じた。何かと思いあたりを見渡すと、すぐにその原因はわかった。背の低い石柱の一つに、自分と同じくらいの少女が座っていたのだ。明らかに魔法使いではない、ラヴィたちにとっては金づるともいえる普通の人間だ。しかしそれはそれでおかしい。普通の人間は、まず怖がってクラルソなんかには来ないから。

「こんな所にいて、怖くないの?」
ラヴィが声を掛けた。その声に少女はハッとして振り向いて、しかしラヴィが同い年くらいの少女だとわかると、安心したように微笑みかける。
「こんばんわ、魔女子さん」
とても上品な声だった。それだけでも高貴な家の出だとわかる。
「こんな所でなにやってるの? 魔法使いや夜は怖くないの?」
「もう既に、もっと怖いことで、おなかはいっぱいですから」
ゾッとしない答え。高貴な娘は続けた。
「私の名前はヴェルガモット。ベルって呼んでください。魔女子さんのお名前は?」
「ラヴィ」

ベルはやはり高貴な出だった。常昼の地にある小さな国の姫。しかしその国は、今はもう無いという。亡国したのだ。それを聞いてラヴィはすぐさま思った。この子からは最上級の、それも大きな「翡翠の涙」が採れると。
「よければその話、聞かせて。あたしが魔法で癒してあげる」
ラヴィがそう言うと、ベルは何の疑いも無く自分の事を打ち明けた。彼女の国は、戦争に破れて無くなってしまった。その際父親である王は殺され、母親である妃は呪いを掛けられた。そして彼女は、母の呪いを解く方法を探して、危ないといわれているクラルソの地まで、はるばるやってきたのだそうだ。
「今度はラヴィの話を聞かせて下さい」
一通り話し終わると、ベルはラヴィに言った。ラヴィは自分が魔法使いの見習いであること、悲しみを結晶にする生業をしていること、でも全然集められなくて、もう辞めようかと思っている事などをツラツラと話した。話しながら「何でこんな事を全部正直に話してるんだろう」と思った。相手に自分の手の内を明かしているようなものだ。けど、ラヴィはこの時既に、ベルから結晶を奪う気は無くなっていた。彼女の悲しみを結晶化したら、きっと父のことも母のことも全部、忘れてしまうだろうから。それはラヴィにとって、とても悲しいことのように思えたから。
「是非私の悲しみも結晶にしてくださいな」
しかしそのことは、むしろラヴィの方から否定した。
「ダメだよ、そんな事したら、お父さんとお母さんのこと、全部忘れてしまうよ?」
「いいんです。もう全部忘れてしまいたいんです。辛くて辛くて毎日を生きるのが嫌なんです。そうだ、昔のことを全部忘れさせて下さい。私の結晶があれば、ラヴィは幸せになれるでしょう? そうしたら私、ラヴィのお弟子さんになって、一緒に魔法使いやります!」
「お母さんのことはいいの?ベルがお母さんのこと忘れたら、独りぼっちになっちゃうよ?」
ラヴィのその言葉に、ベルはハッとなった。そしてすぐにうつむいて、しばらくそのまま黙っていた。その間、ラヴィは自分の母のことを思い出していた。遠い昔の記憶を。

「いいんです。もう十分、やれることはやりました」
それがベルの答えだった。彼女は更に続ける。
「それに本当のこと言うと私、ここに死にに来たんです。でも、ただ死ぬよりもラヴィが幸せになれる方が全然いいでしょう?私だって辛いことを全部忘れて幸せになれるもの」
ラヴィはそんなベルを真剣な眼差しで見ていたが、ふとニッコリ笑うとこう言った。
「わかった、いいよ。あたしも今日までに「翡翠の涙」を持って帰らないと、食いっぱぐれちゃうところだったから。これこそ本当のWIN-WINだよね」
「ですね!」
二人は笑い合う。

「満月が石柱の真ん中に到達したら、ベルの悲しみを吸い取ってあげる。あたしまだ未熟だから、月の力を借りないと失敗しちゃうかもしれないし。それまでちょっと二人で遊ばない? 少し行ったところに、七色の森っていう綺麗なところがあるんだ」
「わあ、是非見たいです!」
二人は手を繋ぎ、ゼムス丘陵を駆けていった。少し行くとすぐに、その森はあった。二人はそこに咲いた綺麗な花や、月明かりに照らされて虹色に輝く滝を見ては楽しんだ。
「ラヴィのお弟子さんになったら、色んな事教えてくださいね」
「もちろんだよ」
笑顔で顔を見合わせる。こんな楽しい時間がずっと続けば良かったんだけど。ラヴィは心の中でそう呟いた。

それから随分と時間が経った。旅疲れなのか、森の癒しの力なのか、ベルは虹色に輝く木陰ですやすやと眠ってしまっていた。
「ベル」
ラヴィの声が聞こえる。
「ベル、そろそろ起きて」
その優しい声に、ラヴィは幸せそうに目を開けた。しかし次の瞬間、自分の身に起こっていた異常に気づき、ハッとなる。
「…!!……!!」
喋ろうとしても喋れない。それもそのはず、口には猿ぐつわがされていた。手足は紐でグルグル巻きにされ、目隠しもされている。ここがどこかもわからない。もがくベルに、ラヴィは先ほどと変わらない、優しい声で囁いた。
「コロッと騙されたわね、お姫様。あんたのような高貴な姫なら、結晶をもらうよりも、然るべき国に売り飛ばした方がお金になるのよ。そう、あんたを探している、あんたの国を滅ぼした国に売り飛ばした方が、ね? それに、一人でさえ食べていくのに精一杯なのに、あんたと一緒なんて冗談じゃないわ。世間知らずのお姫様」
そう囁くように話している間も、ベルはもがき、何かを言いたそうに唸っている。ラヴィはそんなベルの頬に一発、平手打ちをした。乾いた音が森に響く。ベルは途端に萎縮して震えだした。
(これはお母さんの分)
心の中でラヴィは呟く。そしてベルに向かって言葉を続けた。
「死のうと思ってたんでしょ?なら、どこで死んでも一緒じゃない。最後にあたしのためになって死んでくれた方が、一人意味も無く死ぬよりは役にたつってもんでしょ?」

ベルは涙をぽろぽろ流していた。何かをもごもご言いたくて、唸っていたが、身体はもう諦めたようにぐったりしている。そんなベルを無表情な顔で見つめるラヴィ。彼女は自分の母のことを思い出していた。家が貧しくて、ラヴィを育てることすら出来なかった母は、自分との思い出を売り、最低限生きていくに困らない財産と引き替えに、他人になった。その事を思い出す度に、ラヴィは気が狂いそうになる。自分を裏切り他人となった母。自分の一番大切なものを投げ打って自分を助けてくれた母。その矛盾する2つが、答えの無い迷路を彼女の頭の中に作り出す。

ラヴィはその思考のループを振り払い、立ち上がる。そしておもむろに腰からペンダントを取り出した。それは魔法使いが呪文を唱える時に使うもの。空を見上げれば、ほぼ真上に満月が輝いている。ラヴィは月を見上げ、一言祈りの言葉を捧げると、今もなお震えているベルの方を見て呪文を唱え始めた。

「其の悲しみは記憶と共に月の力と成り、また一つの魂と成らん」

ベルを光が取り巻いた。そしてそれはすぐに消えていった。後に残ったのは、気絶したように眠るベルと、その胸元に落ちている、綺麗な翡翠色のクリスタル。
「…大きい。これだけあれば、呪い程度なら十分」
その結晶「翡翠の涙」を拾い上げて、ラヴィは呟いた。
「ごめんね、ベル。でも、この時間は、貴方にとって存在しない時間だった。それだけのことよ」
身体を縛っているロープや、猿ぐつわを取る。ぐったりとした彼女を仰向けに寝かせて、その胸の上に翡翠の涙を置く。そしてラヴィは目を瞑り、その結晶に手をかざしながら呪文を唱えた。
(お母さんは大事にしなくちゃダメだよ…。もう元気になったんだから)
結晶は小さな光となって、空へと消えていった。

「さよなら、あたしだけが知ってる、あたしの友達」
ラヴィはまだ眠り続ける姫の額に軽くキスをし、立ち上がった。

この森なら危ないことはないだろう。目が醒めたらはやくお母さんの元に帰るといい。そう想いながら、ラヴィは満月を見ながらひとつ伸びをした。

「さぁて、明日からどうやって生きていくか、考えなくちゃね」